フランス在住のカメルーンのアーティスト、バルトロメイ・トグオ。母国カメルーンで運営するアートセンター、バンジュン・ステーションと農業へのとりくみについて語る
COVID19は、世界中でいっせいに厳戒体制を引き起こしました。
私も予定されていたプロジェクトが延期されたため、戸惑いを経験しました。それは創造力を生み出すためにはあまりに実りのない泡のようなものでした。すべてが減速していました。私はカメルーンに3か月以上滞在しましたが、制作や発表の機会は非常に限られていました。スタジオ外に閉じ込められたことで、不安が高まり、海外のすべての対話者とのやり取りの時間が長くなり、世界を知ることができました。 時間が出来ることで、私がカメルーンで運営しているアートセンター、Bandjoun Stationでは農業と仕事に従事し、そこで私は住民の健康管理に自分のエネルギーを注ぐことが可能となりました。そんなアートセンターについてご紹介します。
■バンジュン・ステーション
バンジュン・ステーション( Bandjoun Station)はカメルーン の西部地域のバミレケ高地 に位置する中心都市、バンジュンにあります。このバンジュン・ステーションのアートセンターは、現状の確認から始まりました。古典的なアフリカの芸術は今日、西洋の美術館で見つけることができます。この状況は現代美術においても同様で、ほとんどのものは西洋の手中にあります。この現象は、アフリカ大陸には芸術のマーケットがなく、美術館を自国に作るという政治的な意思がなかったため、作品が外に出てゆくことを防げなかったのです。そのため、野心的な文化プロジェクトの一環として、現代アフリカのアーティストの作品あるいは野心的な文化プロジェクトを展示できるスペースを作る必要がありました。さらにこれらの作品が、対話と文化の共有の精神をもって、世界中のアーティストの作品と関連付けられる場所であることが私には重要であるように思われました。
バンジュン・ステーションには、交換や寄付によって育まれた恒久的なコレクションが増えています。コレクションは1,125点の作品で構成されており、その大部分はアーティストやコレクターとの交流から生まれています。コレクションにはセネガルの作家 ソリ・シセ (Soly Cissé) や ベナンのドミニーク・ジンクペ(Dominique Zinkpè) などによる絵画、ルイーズ・ブルジョアのドローイング、ミロやタピエスの版画、ローリー・アンダーソンのサウンド・スカルプチャーなど多彩です。
バンジュン・ステーションの使命の一つは教育と知識を伝えることです。そう、私たちはこの地域の学童を対象とした教育的な要素を全部を持っています。アーティストやキュレーターの為のレジデンス組織としても機能しています。彼らのプロジェクトは地域社会と協力して実行されなければなりません。それが私たちを地域から切り離された孤島のような存在になってしまうことを防ぎます。バンジュン・ステーションは芸術的、社会的な活動ですが、そしてさらに特異な農業に取り組む組織があります。オーガニックコーヒーの自社生産を開始しました。これは私たちにとって芸術におけるアクションから横へ活動を広げる強力な政治的かつ批評的な行為です。西洋が輸出に関わる金額を決定して南の農家がいつまでたっても貧困に苦しむ現状、レオポール・セダー・センゴール (セネガルの初代大統領で詩人でもある)が「交易条件の悪循環」と呼んだ現状に対する取り組みとなっています。
■ 農業プロジェクト
農業のセクションでは、コーヒーを選びました。カメルーンの州からジャワと呼ばれる品種の苗床を譲ってもらいました。アラビカ種はバンジュンの丘でよく育ちます。この農業プロジェクトは南北貿易の批判に基づいているわけですが、第三世界の国々の農民は生産から流通までの一貫したチェーン全体を押さえたルートを持っておらず、まずそれをやろうとしました。
農家では原材料を生産し、国がその後輸出用に販売します。アフリカ諸国は世界市場レベルで西洋と比べると力を持っていないので、非常に低価格で購入しようとする西側に対して原材料の販売の段階で国の役割は終わってしまい、それが南の農民を貧しくしています。カメルーン西部の村では、コーヒー栽培は利益がでないので農民はコーヒー栽培を断念しました。彼らは生き残るために、コーヒーの木を抜いてキャッサバやトウモロコシを植えました。生き残るための彼ら自身の食糧です。こうした状況に対する批判として私は独自の苗床を作り、完成品を自ら作ることを目指しています。有機栽培に力をいれ、署名と番号が付けられたリトグラフ付きのパッケージを作っています。原材料でなく完成品をつくり、製品の価格を自分で設定できるようにするためです。