ARTISTA x ARTISTA カルロス・ガライコアが語る。

ARTISTA X ARTISTA はハバナのミラマール地区、1950年代のモダンな建物にあります。キューバのアーティスト、カルロス・ガライコアのスタジオによってキューバ及び国外の若手アーティスト交流と海外の美術関連組織や文化団体とのネットワークを作ることを目的として2015年に創設されました。

courtesy of ARTISTA x ARTISTA

ARTISTA x ARTISTA はハバナのミラマール地区、1950年代のモダンな建物にあります。キューバのアーティスト、カルロス・ガライコアのスタジオによってキューバ及び国外の若手アーティスト交流と海外の美術関連組織や文化団体とのネットワークを作ることを目的として2015年に創設されたプロジェクトです。

このプラットフォームは国外のアーティスト達がハバナに滞在しながら地域でワークショップやフィールドワーク、リサーチを行えるようになっています。また様々なアーティストと交流する機会をつくることで地元ハバナのアートシーンにも刺激を与えることもその重要な目的です。

めまぐるしく移り変わるキューバの社会的な環境において、長期的に持続可能なモデルとなることを目指し、創造の場をつくることを目的としており、今後のキューバの文化シーンにも影響を与えることになるであろう先駆的なプロジェクトです。 同時に国外の様々なアート組織の協力を得てキューバのアーティスト達が海外でレジデンスを行えるように支援しています。

■ 1 x 1 = 1

ARTISTA x ARTISTAは複雑なキューバの状況の中からハバナの新しいアートシーンにおいて作品制作、展示、カタログなどをサポートするプラットフォームとして生まれました。きっかけは2005年に遡ります。まだ私が自身のスペースさえ持っていなかった頃、ミュージシャンである妻、マエ・マルティとキューバのアートシーンを横につなぐ場所づくりの話をしていました。そしてアートに対する支援不足も打開できないかと。作家間のヒエラルキーに関わらない形で世代を超えたアーティスト間の協力関係を作り出す方法が提案できないか、そうしてできたのがARTISTA x ARTISTA (artistaはartistのスペイン語)で、名前は「ある作家が他の作家を手伝う」という1 x 1 = 1という発想がもとになっています。

カルロス・ガライコアの展示、「ARTISTA x ARTISTA 1, 第12回ハバナビエンナーレ展」2015 ⒸARTISTA x ARTISTA

またその頃、キューバの作家を海外のレジデンスに送り込むことも考えていました。2015年にハバナに初めて施設が出来たときにこれら制作サポートとレジデンスの2本つの骨子をベースした新しいモデルとしての組織が出来たわけです。 キューバ、あるいはラテン=アメリカのオルタナティブスペースの歴史を振り返り、インスピレーションの源になったものが複数ありました。1つはEspacio Aglutinador de Arteで、サンドラ・セバロスと エゼキエル・スアレスが自分たちのアパートの居住空間で展覧会を行うキューバにおけるパイオニアです。彼らは今もそうですがキュレーションのプロセスやアートスペースの在り方にとてもラディカルな考えを持ち1994年創設以来、大きな流れをつくったと思います。作家のスタジオをシェアすること、政治的、或いはアーティストとしての考えをアートコミュニティのなかで共有する方法などという観点でとても参考になりました。2つめは2000年にタニア・ブルゲラがつくった学校、Cátedra de Arte de Conducta、またはBehavior Art Schoolともいいますが、全く異なる教育的アプローチをする民間のアート・スクールです。タニアは何人かのアーティストと若い世代に教えたりワークショップを通じ言葉や詩などを使って表現をさせたりしています。そこで学んだ数名はいまキューバの若手アーティストとして活躍し始めています。1998年コスタリカで創立されたTeorÉtica もARTISTA x ARTISTAをつくるうえで非常に参考になりました。

クリスティーナ・ガリード (スペイン) 滞在中の展示、2015、 courtesy of ARTISTA x ARTISTA

ARTISTA x ARTISTAは展示スペース、図書室、ワークショップ教室、会議室と作業空間を併設するレジデンス施設として先駆者たちを参考にして作られました。海外の作家たちが一般的な観光よりも長い 6週間という期間、キューバに滞在できるようにしつつ、逆に若手キューバ作家が世界中のアーティスト・イン・レジデンスに参加できるように橋渡しをしています。

■ 境界線を越えて

政治的、経済的な理由もあって私は2007年に家族でマドリッドに移住して、自身はヨーロッパで活動することになりました。マドリッドでスタジオを開いてもハバナのスタジオを閉じないという判断はARTISTA x ARTISTAにとって重要でした。残った私のスタッフは建築、メディア、デザインなど様々な分野のプロフェッショナルで構成されていました。スタジオがあってスタッフがまだハバナに要ることはARTISTA x ARTISTAをオープンする必要条件でした。自身がキュレーターでありライターでもあるスタジオ・ディレクターのLillebit Fadraga が中心となって熱意をもってプラットフォームづくりにあたってくれました。

クリスティーナ・ガリード (スペイン) 滞在中のアーティスト・トーク、2015、 courtesy of ARTISTA x ARTISTA

マドリッドでも2007年から新しいコンテキストで「オープン・スタジオ」という場所を作りました。これはより広い範囲で人と人とを繋ぐための場所なのですが、非常に広い意味でのキュレーションや知的興味を背景としています。マドリッドのアートフェアARCOの週には必ずアーティスト、コレクター、美術館やギャラリー関係者の集いの場になっていて、若手作家たちへの橋渡しをしています。ついこの間、先週のことですが、第13回目を行いましたが、「オープン・スタジオ」もARTISTA x ARTISTA プログラムを支えるうえでも重要な活動だと思っています。

Loidys Carnero 滞在中のリサーチ、2017、 courtesy of ARTISTA x ARTISTA

まだ僅かですが、キューバでもゆっくりと市場開放が進め始めたので、現在は家やスペースを個人が売買したり様々なビジネスや起業をすることを政府も認めています。(注1) ですから私たちが以前からやろうと思っていたこと、スペースを手に入れてキューバのアートシーンにとって価値のあるきちんとした運営方針にのっとった長期的視点を持ったスペースを作ることは私のスタジオにとって自然な流れでした。

■ 地域と外をつなげる

現在ARTISTA x ARTISTAは非常にベーシックなアーティスト・イン・レジデンスのプログラムとして発展しています。前述したように、私たちの主な目的は、活気に満ちたキューバのアートシーンにアーティストとの交流の場を提供し、世界の全く異なる視点に接してもらう場所になることでキューバのアートはより豊かになります。ここはキューバの同世代のアーティストと対話をする場所であり、キューバという深遠でエネルギーに満ちた場所を体験することで海外の作家のためにも素晴らしいリサーチスペースであることが重要です。また、現代キューバの特殊で複雑な環境からアイデアを発展させ、制作の出来る特別な機会を海外作家に提供したいと思います。滞在する人たちには制作、居住の場を提供するとともに、渡航費、医療保険、6週間から2か月分の日当、製作費もカバーしますし、スタッフがキューバのコミュニティーとの橋渡しもやってくれます。

Ornaghi & Prestinari 滞在中の展示, 2016、 courtesy of ARTISTA x ARTISTA

その代わりにアーティスト達には最初の週にプレゼンテーション、または小さめの作品を持ってきてもらって展覧会をしてもらいます。これは自己紹介のようなもので、まず地元キューバのアーティスト、キュレーター、批評家や学生に来訪したのがどのようなアーティストか理解してもらうのが目的です。そして滞在の終わりが近づくと学校で子供や美術系の学生に対してワークショップをしてもらったり、キューバでの体験についてトークもしてもらってます。私たちが特に気を付けているのは、なにより滞在中、アーティストには拘束を与えず、リラックスして制作する充実した時間をハバナで過ごしてもらうことです。他の多くの組織では滞在期間中に作品をつくり、展示をするが条件があったり、作品を数点寄贈するようになっているところもありますが、私たちはそうした決まりごとを全て取り払って自由にリサーチをしてもらったり場所を使ってもらうことに重きを置いています。

Taxio Ardanaz滞在中のワークショップ、2016、 courtesy of ARTISTA x ARTISTA

「世界を知るようにと」キューバのアーティスト達にいつも言っていますが、ヨーロッパ、ラテン・アメリカ、日本、ロシアなど世界の様々な組織と連携して交流プログラムを行っています。最も援助してくれるのはAC/E (Acción Cultural Española)、ローマのスペイン王立アカデミー、バスクのアスクナ・セントロア、メキシコのアートスペースLa Talleraですね。時折他のプログラムからも支援をいただき、モスクワ、イタリアのトリエステやミラノなどからもアーティストを迎えています。キューバと世界の様々な組織と結び付けることはキューバに新鮮な風を送り込み、ダイナミズムを与えることに役立っていると思います。キューバには公共の、或いはおそらく民間でさえもアーティストにチャンスを与えてくれる組織なんてないのです。だからこそARTISTA x ARTISTAは作家と共に考え、共に作ることで作家がグローバルなコンテクストに加わっていけるように手を貸す場所でいたいと思っています。

2021年7月末、カルロス・ガライコア

毛利悠子と持田敦子、滞在中の展示、2018、 courtesy of ARTISTA x ARTISTA

注1: キューバは1959年の革命以来、社会主義体制を維持している。2011年の第6回共産党大会以降ゆっくりと自営業や不動産取引の許可等の自由化を行ってきた。憲法上も2019年4月の改正により私有財産が法的に許可された。